音楽聴取時のスピーカ特性が幼児の左右前頭葉活動に及ぼす影響
目的
現代社会には様々な人口的音が氾濫しており、スピーカーによって音が聴きづらさがイライラ感など心理的ストレスを生じさせつこともある。そこで本研究では、入力信号の再現性の高いスピーカ(入出力の位相差の少ないもの)と再現性の低い通常のスピーカを用いて、幼稚園児の年長・年中組(5~6歳児)に音楽(トトロ)を聴かせ、ストレスに関連深い左右前頭部の活動への影響を、脳波指標で検討した。
方法
図1
1.被験者幼稚園児248人(5~6才)。年長(女児70人 男児68人)、年中(女児49人 男児61人)
2.幼稚園児の一室に椅子と2種類のスピーカを園児の前方約1.5mにセットし、被験者を一人ずつスピーカに向かって椅子に腰掛けさせた。その場でヘッドバンド式の脳波センサーを前額(Fp1、Fp2)に巻き付け、左耳朶を基準電極として簡易脳波測定装置(自己開発)により閉眼状態で脳波を記録する。記録時間は1分40秒。(図1)実験では、まず安静閉眼時の脳波を測定し、つぎに音楽を聴かせた状態で測定した。スピーカーについては2種類の順序効果をなくすよう交互に使用した。
3.使用スピーカ
入出力信号に位相差の少ないスピーカ(LC)と通常のスピーカ(D)を使用。100Hzから8KHzの周波数を100Hz間隔で均一に含む倍音構成。入力信号をFFTで周波数変換、実部虚部で別々に相関係数を求め、両者の平均で再現性を評価した。
結果
図2
年長児と年中児の脳波データの傾向が類似し、結果については両者をまとめた。
1.平均周波数
どの条件でも左前額部の周波数が右前額部の周波数よりも高い。男児では音楽聴取時に周波数が低下している。Dスピーカでは男女差が顕著である。(図2)。
図3
2.周波数ゆらぎ係数
前頭葉の活動と感情処理プロセスの間には密接な関係があり、これまでの研究から負の感情下では左前頭葉が、正の感情下では左前頭葉で相対的に活性度が高まることが示唆されている。また我々の過去の研究から前額部の周波数ゆらぎ係数は気分のよいときには左前額部の係数が1(絶対値)に近く、覚醒感が相対的に低い場合は、右前頭部の係数が1に近くなることがわかっている。リラックスしているときは、全体に係数が大きくなると同時に。相対的に右側の係数が大きいことを示している。特に男児が顕著である。
図4
3.快適度
快適度は、左右前額部のゆらぎ係数から、快適度=√((Fp1*2+Fp2*2)/2)*100の式で算出したものである。この式で、左右前額部の係数が1の時を100%とする。図4は各条件で算出した快適度であるが、LCスピーカで快適度が高いことが分かる。
図5
4.心拍数
心拍数は、LCスピーカでは安静時よりも相対的に低い。一方Dスピーカでは心拍数が高い(図5)。
考察
以上の結果により、位相差の少ないスピーカでは快適度が高いことが示唆される。しかし、スピーカの効果には男女差もみられ、男児の方がリラックス効果が高い。これは、女児がトトロという歌に強く注意を向ける傾向にあったためと思われる。
音響機器を通じてスピーチや歌を聴く場合には、入力信号の再現性の高いスピーカを使用することが、脳に対するストレスの軽減にとって重要であると思われる。