再現度の高いLCCスピーカーが知的障害の回復に与える可能性
2016年11月13日、岐阜市で開催された「第10回日本音楽医療研究会学術大会」での発表内容です。(※PDF版はこちら)
【目的】
デジタル化が進む中、スピーカーの生産技術も向上し、多種多様な音楽のジャンルに特化したスピーカーが登場している。最近の音楽療法でも、生楽器(ピアノ等)ではなく音響機器を使用して指導する方法も多く見受けられる。今回の研究では、スピーカーの再現性に対する、生の音源を忠実に再現することに注目し独自に開発した、生楽器よりクリアーな音場を追求したLCCスピーカーを用いることによって、再現度の低いスピーカーを(A)再現度の高いLCCスピーカーを(B)とし重度知的障害を持つ女子に対してどのような影響が有るかを比較研究する事によってLCCスピーカーの優位性を示し、更なる研究への足がかりとなることを目的とする。
【対象】
1歳の時予防接種の副作用で右麻痺と重度知的障害と診断された。現在19歳女子Ⅰ名。
【方法】
1、(A)を(B)に置き換え、今まで通り被験者の好きな音楽CDの曲を1日3回、1回30分を6ヵ月間聴いてもらい、その変化を調べる。
2、使用スピーカー:LCC-151 仕様形式:密閉型2ウエィ2スピーカー
使用ユニット:13cmウーファー×1:7cmツィーター×1周波数特性:75Hz~20KHz
インピーダンス:8Ω最大入力(PERK)150w出力音圧レベル:89dB/w/m
外形寸法:260(W)×160(H)×168(D)mm重量:2.5kg
【結果】
1.表現、コミュニケーションに対する変化
(A)で音を聴いるときには変化が起きなかったが、(B)の音を6ヵ月間聞く事によって、目に見える
変化が起きた。聴き始めて3日経つと如実に表情が明るくなり歌おうという姿勢が見られた。更に1ヶ月後には自分からコミュニケーションを取ろうとするよう積極性が増し、会話をする際の語彙が増加する傾向がみられた。
2.筆記動作に対する変化
被験者の名前を片仮名で枠に筆記する際、今までその中に収めて書くことが出来なかったが、LCCスピーカーで音楽CDを聴き始めてから6ヵ月後、縦1cm×横6cmの枠に、初めて均等な筆記で枠内に収まる文字を書くことが出来た。
【考察】
脳の覚醒化
再現性の高いLCCスピーカーで音楽を聴く事によって、脳の覚醒化を起こし、被験者の応答性を 高め、そのメンタル状態を著しく変化させることになった。更に6ヶ月後には筆記動作に対する変 化やコミュニケーション能力の変化なども認められた。
【結語】
今回、被験者は一人であったが「再現度」の高いLCCの音は重度知的障害児を始め、耳から入る音 の質について音楽療法の分野においても多くの可能性を示唆していると考えられる。今後は医師 や音楽療法士と共同で臨床事例を多く重ねながら、再現度の高いLCCスピーカーの効果につい て、そのエビデンスを構築していきたい。そして1人でも多くの障害を持つ人達に対して有効な支 援を行っていきたい。
石塚 進
株式会社エルシー電機
2016・11・第10回日本音楽医療研究会学術大会ポスター発表